第6章 パン好き女子のご家庭事情
突然走り去ったプリンに、ムギとサンジは揃ってクエスチョンマークを浮かべた。
「あれ、なんか俺、マズイことでも言っちまったかな?」
「むしろマズイことしか言ってなかったような気がしますが、プリン先輩もあのくらいで動じる人じゃないんで、どうしたんですかね?」
「へえ、あの子、プリンちゃんって言うんだ。」
残念ながらムギもサンジも繊細な乙女心には疎く、恋の嵐にはまったく気がつかない。
「あーあ、プリン先輩にうちのパン食べてほしかったのになぁ。」
「そうなの? 悪いことしちまったな。じゃあ、明日の朝、詫びになんか焼くよ。」
「サンジさんの奢りで?」
「もちろん!」
よっしゃ、パン代が浮いた。
ムギもプリンにプレゼントしようと思っていただけに、心の中でガッツポーズを決める。
「てめぇら、いい加減にしねぇか! 無駄口叩いてねぇで、さっさと働きやがれ!」
そろそろ怒られるかな……と思ったタイミングでゼフの叱責が飛び、サンジは悪態を、ムギは謝罪を口にして持ち場に戻ろうとする。
すると、思い出したようにゼフがムギを呼び止める。
「おい、ムギ。そういや昼間、店に変な電話が掛かってきたんだが。」
「変な電話、ですか?」
「ああ、知らねぇ男から、うちに米田ムギは働いてるかってな。」
「え……。」
ムギの脳裏に、昨夜の出来事が蘇る。
ぎらりと光るあの目は、確実にムギを捉えていた。
「それで、なんて答えたんですか?」
「個人情報は教えられねぇと言った。お前、なんか心当たりはあるか?」
「…………いえ、なにも。なんでしょうね、変な電話。」
たっぷりの間を置いてから、ムギは笑顔を張りつけた。
そうでもしないと、ゼフに心配を掛けてしまうとわかっていたから。
「なんでもねぇならいいが、気をつけろよ。お前は女なんだからな。」
「はぁい。」
女じゃなければ、こんな面倒に巻き込まれずに済んだのか。
そんな仮定話を考えても意味がないと、とっくの昔に知っていた。