第6章 パン好き女子のご家庭事情
プリンは有言実行な女だった。
こっそりひとりで帰ろうとしていたムギを早々に捕まえ、三つ目の瞳で睨まれながら駅まで連行される。
「へぇ、ここがローくんの最寄り駅なのね。ここで待っていたら、ローくんに会えるかしら?」
「さあ、どうですかね。人も多いですし、帰りはあまり会ったことありません。」
内心、ムギはひやひやしていた。
下校時にローに会ったことは何度かあったし、今日に限って鉢合わせてしまったら、絶対に面倒事に巻き込まれてしまう。
プリンが待ち伏せを決行するかどうかはさておき、直ちにこの場から離れたかった。
「あー……、プリン先輩。わたし、これからバイトなんで、もう行ってもいいですか?」
「バイト? しょうがないわね。あんた、なんのバイトしてたんだっけ?」
「パン屋です。」
「……あんたらしいわ。」
高級フルーツサンドでムギを釣った記憶は新しく、プリンはげんなりした様子でムギを解放しようとして、すぐに考えを改めた。
「じゃ、私もそこに行くわ。」
「……え!?」
「だって、あんたが働くパン屋なんでしょ? 売っているパンに興味あるもの。」
「あ、う、ありがとうございます。」
プリンの顔は、純粋に美味しいパンに興味があると語っていた。
こうなってしまうと、ムギは弱ってしまう。
バラティエのパンはムギにとって自慢のひとつであり、多くの人に知ってもらいたくもある。
プリンが食べてみたいと願う以上、バラティエの従業員として、パン好きの女として、連れていかない選択肢はない。
(……ま、いっか。どうせローは朝しか来ないし。)
ムギの切り替えは早く、にこりと笑ってプリンを自慢のバラティエに案内するのであった。