第6章 パン好き女子のご家庭事情
ローの存在を知ったのは、駅で見かけたことがきっかけで間違いはない。
でも、実際に接触したのは彼がバラティエに通うようになったからだ。
そう説明をすればプリンは納得するだろうが、できればムギはそれを教えたくはない。
(もし教えたら、プリン先輩、どうするんだろ。)
彼女がローを狙っているのは明白で、情報を漏らした途端、プリンもバラティエに通い詰めるのだろうか。
パンやコーヒーを目当てで来るのならばともかく、ロー目当てでバラティエに通い詰められるのは、正直良い気持ちはしない。
それに、ローが前のカフェに出入りできなくなった理由を知っているとなれば、なおさらである。
「ちょっと、なに黙ってんのよ。さっさと白状した方が楽になるわよ?」
どこかの小悪党のようなセリフを吐くプリンに対し、ムギは苦笑を浮かべて誤魔化した。
「そう言われても、本当に最寄り駅が同じなだけですよ。駅でパンを齧ってたから、変な女とでも思ったんじゃないですか?」
「は? あんた、駅でパンなんか食べてるの? ちょっと引くわ……。」
別に引かれたってかまわないけれど、そういえば今日はローがくっついてきたせいで食べ損ねた。
まだボニーは登校していないだろうし、教室で食べればいいか。
「……ちょっと! 今、絶対に他のことを考えてたでしょ!」
「よくわかりますね。」
「あんた、顔に出やすいのよ! いかにも面倒だって顔しちゃって! もういいわ、日曜日の件は水に流してあげる。」
「助かります。」
元を正せば、プリンがムギを無理やり参加させたせいだとも思うのだが、その点については蒸し返さないでおこう。
「あ、そうそう。約束の謝礼を忘れていたわ。はい、これ、ご苦労様。」
「え、くれるんですか!」
「約束は約束だからね。報酬は必要でしょ?」
てっきり貰えないと思っていた報酬。
よくある茶封筒を受け取ったムギは、感動のあまり瞳を潤めてプリンに礼を言う。
「ありがとうございます! この厚み、3000円ですね? わぁ、こんなにいいんですか!?」
「な、なんで開けてもいないのにわかるのよ……!」
「特技です!」
心底どうでもいい特技を披露され、プリンの顔はひくりと引き攣った。