第6章 パン好き女子のご家庭事情
30分早く駅に着いたムギは、いつもと違う時間帯に来た電車に乗り込もうとした。
「あ、それじゃ、わたしはこれで…――」
ここでローとはお別れだと思いきや、ムギが乗るべき電車に彼も一緒に乗り込んできた。
「え、ちょっと、これ各駅停車ですよ?」
「ああ。時間が早いから、今日はこの電車で行く。」
「だから、バラティエでゆっくりしていけばよかったのに……。」
「お前、わざと言ってんのか?」
「は? なにがですか?」
もともとお喋りじゃないからか、ローの言葉には主語が足りない。
なにがどうわざとなのか言ってくれないとわからないのに、それ以上話すつもりがないローは、不機嫌そうな顔をしてムギの隣に腰を下ろした。
「隣に座られると、一緒に学校通ってるみたいで嫌なんですけど。」
「あ? 嫌? お前、今嫌と言ったか?」
「だって、周りの女子の視線が痛いんですもん。」
「そんなもん、いちいち気にしてんじゃねェよ。」
「気にするでしょ。そりゃ、ローはいいですよ。でも、わたしは変な誤解を受けて、ぐさぐさ視線が刺さるんです!」
いつもと違う時間帯なのがせめてもの救いだけど、ローを知る女子からは「なんであんた程度の女が?」と言いたげな視線が突き刺さってくる。
「誤解、な。それなら、誤解じゃなくしちまえばいいだろうが。」
「誤解じゃなく……? つまり、一緒に学校に行くって意味ですか?」
お互い学校は違うから、一緒に行けるのは途中までだが、そんな誤解を真実にしたとて、ムギに向けられる視線は変わらない。
そう説明したら、ローはますます眉間の皺を深くして不機嫌そうに呟く。
「お前、やっぱりわざとだろ。」
「はい?」
だから、主語がないとわからない。
ローの言動に首を傾げてばかりだったムギは、この日から毎朝ローと通学する羽目になると知る由もなかった。