第6章 パン好き女子のご家庭事情
夕方、無事にバイトへ間に合ったムギは、憂鬱なため息を吐いた。
「どうしたの、ムギちゃん。もしかして、扶養のことで怒られちゃった?」
これから退勤するところだったレイジュに心配され、ムギは緩く首を左右に振った。
「いえ、大丈夫です。というか、まだ言えてなくて。」
「そう……。ごめんね、ムギちゃん。私たちがもっと気をつけなくちゃいけなかったのに。」
「そんな、レイジュさんたちが気にすることじゃないです。なんというか、社会の常識? を知らなかったわたしが悪いので!」
「でも……、ちょっとムギちゃんに頼りすぎてたわ。人手不足の件は、もっと深刻に考えないとね。」
こういう時、学生という身分は非常にもどかしい。
もし、ムギがバラティエの社員だったなら、自分の時間が許す限り一丸となって働けたのに。
「とにかく、ムギちゃんはちょっとシフトをセーブしなきゃね。」
「はい……。」
ムギの給与事情はレイジュの口からサンジとゼフに伝わっていた。
二人とも今までちっとも気がつかなかったことに罪悪感を抱き、普段よりも早めに上がらせてくれた。
「じゃあな、ムギちゃん。気ィつけて。」
「はい、お疲れ様でした。」
あと一ヶ月もすれば寒気が迫るこの季節、夜になると少し肌寒い。
そろそろ制服のセーターを出すべきかと考えながら、ほとんどの店が閉まった商店街を歩く。
(あと二ヶ月はシフトをセーブして、来年からはもっと考えなくちゃなぁ……。)
落ち込んだ気分で歩いていたら、背後からちくりと視線が突き刺さった気がして、ムギはゆっくり後ろを振り返った。
まばらな街灯が照らす商店街は薄暗く、人通りも少ない。
けれども、ムギの瞳には映っている。
数十メートル先の電柱の陰から、ぎらりと光る二つの目。
「……アブ兄。」
じっとりと纏わりつく視線。
それは、過去の悪夢の再来であった。