第5章 見返りはパン以外で
今度こそ本当に、ローの機嫌を損ねてしまったかもしれない。
しかも、そうとうに怒らせてしまったのか、時間が経ってもローの機嫌は直らず、そのまま出口へと向かう。
(わたし、そんなに変なことを言ったかな?)
己の行動を見つめ返してみても、これといって原因を見つけられない。
あえて言うならラスクの件だが、あの時に気分を害したと思ったのは一瞬で、そのあとは普通に接していたのに。
(怒るなら怒ってくれればいいのに、だんまりだと気まずいんだよ……。)
謝りたくても、原因がわからなくては謝れない。
困って密かにため息を吐くと、出口ゲートの傍にあったお土産ショップが目に留まった。
動物の絵柄がプリントしてあるだけのクッキーや、ハンドタオルやキーホルダー。
原価のわりに高額なそれらに興味はなく、普段であれば間違いなく素通りするのだが……。
「……すみません、ちょっと買いたいものがあるので待っててください。すぐに済みますから!」
「ああ。」
出口ゲートでローを待たせ、ムギはお土産ショップに走る。
時間にして、僅か5分。
猛スピードで買い物を済ませたムギは、大きなショッピング袋を持って帰ってきた。
「早ェな、なにを買ってきたんだ?」
「はぁ、はぁ、ちょっとした…記念品です……。」
息を切らして戻ってきたムギに対し、ローはそれ以上突っ込んだ質問をしてこない。
もう一度出口へ向かったムギとローは、そのままゲートをくぐって動物園をあとにし、帰路についた。
帰りの電車では、行きと違ってローは最初からムギの隣に腰を下ろしたが、特に会話もなく、彼はどこか遠くを見ていた。
なにか考え事をしているのだろうと察したムギは、自分から喋り掛けるでもなく、電車に揺られてゆっくりと瞳を閉じた。