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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第5章 見返りはパン以外で




ムギが作ったお弁当は、美味いか不味いかに分類するのなら、絶対に不味い。
けれども、ローは決して文句を言わず、硬くて美味しくない料理を次々と平らげていく。

「ねえ、本当に無理しなくていいですよ。お腹壊したりしたら大変だし。」

「壊すもんでも入ってんのか?」

「や、大丈夫だと思いますけど……たぶん。」

絶対と言いきれないところが残念だ。

「ブロッコリーの茹で加減はちょうどいい。」

「あ、わかります? わたし、切るのと茹でるのは得意なんですよ! 卵もな、無理して玉子焼きに挑戦しないで、茹で卵にすればよかったのに。」

「玉子焼きのつもりだったのか……?」

「あ……。」

調子に乗って、いらぬ失敗を暴露してしまった。
ローがパンさえ食べられたら、素敵な断面のサンドイッチを披露してあげられたのに。

「というか、お弁当作るくらいなら、レストランに入ればよかったんですよ。ここの動物園、ジャングル風のランチが有名なんですって。」

野性味溢れた骨付き肉に、バナナの葉で蒸した魚料理。
どれも本格的で、ムギ的にはそちらの方が断然食べたかった。
しかし、ローは違うようで、二個目のおにぎりに手を伸ばした。

「そんなもん、意味はねェ。」

「意味ってなんです? わたし、料理はできないって言ったのに。」

もし、その意味とやらが「ムギの料理がどれだけ下手か見たかった」との理由ならば、年上だろうがイケメンだろうが、一発殴らせてもらいたい。

そんな物騒な予想など一蹴するかのように、ローは真面目に答えてくれた。

「前にお前が寄越したラスク、あれはお前が作ったもんじゃねェだろ。」

「え? ああ、まあ。あれはお店の売り物なんで。」

「あの時はつい喜んじまったが、考えてみりゃ、あのいけ好かない男が作ったかもしれないもんを貰っても、嬉しくもねェ。だから、正真正銘、お前が作ったものが食べたかった。」

「……。」

ローの言葉を理解するまで、ずいぶん時間が掛かった。

ラスクをあげて、ローは喜んだらしい。
それはよかった。

よかったけれど、そのあとの発言はなんだ?

なぜ、ムギの手作りでなくちゃ嬉しくないのか。
なぜ、ムギの手作りが食べたいのか。

理由を考える前に、ムギの顔は燃えるように熱くなったのだ。



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