第5章 見返りはパン以外で
ワニの池から離れると、次はフラミンゴの飼育池があった。
ピンク色の羽が美しく、細い足で器用に立って眠る姿は、芸術品の類にも思えた。
「フラミンゴがピンク色なのは、エビやカニを餌にしているからという説がある……ですって。へー、勉強になりますね。……って、なんでそんな顔で見てるんですか?」
フラミンゴを眺めるローの顔は、苦虫を噛み潰したようにしかめっ面である。
「あの鳥は好きじゃねェ。」
「なんでですか、綺麗なのに。」
「宿敵に出くわしたような気分になる。」
「フラミンゴが宿敵って、前世でなにがあったんです……?」
知りたいような、知りたくないような。
とにかく、ローがフラミンゴに喧嘩を売らないうちに、早々に場所を移動することにした。
「あ、あっちに動物ふれあいコーナーがありますよ。行ってみません?」
「手が汚れそうだな。その前にメシにするか。弁当はこの中か?」
「ああ……、はい。」
最初にムギから奪った手提げ袋の中から、約束のお弁当が満を持して登場した。
食べるんですね? 食べちゃうんですね?
(まあまあ、落ち着いて。わたしにしては、けっこう上出来だったぞ。)
けれど思い出されるのは、ローが作った完璧雑炊。
あれと比べられちゃ、ムギが作るどんな最高傑作も子供のおままごとに等しい。
近くにあった休憩スペースに座ったムギたちは、テーブルの上でタッパーに入ったお弁当を広げる。
いざ蓋を開けて披露し、恐る恐るローの反応を窺う。
「……。」
「……ちょっと、なにか言ってくださいよ。」
「ああ、……斬新だな。」
斬新。
お弁当に対する感想が斬新。
とりあえず、褒め言葉じゃないことだけは伝わった。
「これはなんだ?」
「おにぎりですよ! どっからどう見てもおにぎりでしょ!?」
「握った…のか……?」
握った。
例えおにぎりが丸でも三角でもなく平べったい形をしていても、おにぎりの具が真ん中ではなく四方八方に飛び散っていても、間違いなく手結びおにぎりである。
「まあね、ちょっとおにぎらず風になりましたけど、食べちゃえば味は同じですから。」
「……お前がおにぎらずを勘違いしていることだけは、よくわかった。」