第5章 見返りはパン以外で
リトルガーデン動物園は、古代のジャングルをテーマにした動物園で、そこかしこに巨木や蔦が生い茂っている。
「わー、すっごい。本物の密林って感じですね。尻尾の長いお猿さんが出てきそう!」
映画やアニメなんかでは、こんなジャングルでは軽快な動きをする猿やカラフルな鳥が現れるものだが、そんなムギの感想を聞いたローは、呆れた視線を寄越してくる。
「出てくるわけねェだろ。あんな連中を放し飼いにしてたら、あっという間に脱走するだろ。」
「そんなことはわかってますよ! もう、ロマンに欠けるなぁ。こういう時、そうだねって共感してくれないと、女の子に嫌われますよ?」
「そうかよ……。まあ、善処する。」
「あれ……。」
女子に好かれたくないローは、てっきり「余計なお世話だ」とか「それならそれでいい」とか、肯定的な返事をすると思ったのに、むしろ努力するような言い方をされ、ムギとしては肩透かしを食らった気分だ。
「あ、見て見て、ナマケモノですよ! のんびりしていて可愛いですねぇ。」
「可愛い? かなりのアホ面に見えるが……。」
「可愛いですね!」
「……そう思えなくもない。」
それが善処した結果か!と言いたくなるが、まあいいだろう。
ローの感想はさておき、久しぶりに来る動物園はなかなか楽しい。
キツネザルやカピバラは可愛いし、キリンや象は思っていたより大きい。
子供の目線で楽しむよりも、大人になって楽しむ方が新たな発見ができてわくわくする。
「あ、池にワニがいますよ。ワニって意外と小さいんですね。」
「種類にもよるだろ。小さくてもワニはワニだ。うっかり池に入って捕まえようとするなよ?」
「捕まえるわけないじゃないですか、馬鹿にしてます? でも、ワニ革って高く売れるんでしたっけ?」
「おい、値踏みする目で見るのはやめろ。……捕まえるなよ?」
もちろん冗談なのに、さり気なく首根っこを掴むのはやめてほしい。
第一、ワニの池には柵が張ってあるから入れない。
張っていなかったとしても、捕まえるほど馬鹿じゃないさ、たぶん。