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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第5章 見返りはパン以外で




途中までは確かによかった。
よかったはずなのに……。

「あれぇ? なんでうまく握れないんだろ。」

熱々の白米を冷ましてから一時間。
ビニール手袋を装着し、いざおにぎりを握ってみたら、笑ってしまえるほど握れない。
ご飯粒がべたべた手に付着して、握るたびに得体の知れないナニカへ変形していく。

おにぎりを侮っていたムギは知らなかった。
おにぎり作りにおいての鉄則は、ご飯が熱いうちに握ることにある。
冷めた米は粘着力が増してしまい、触れれば触れるほどべたべたとくっついてしまう。
ムギの状況がまさにそれ。

(んん~、失敗かなぁ。でも、もう一度炊くのもな……。)

歪な形になったおにぎりを眺め、ムギが取った行動はひとつ。
海苔を強引に巻いてみた。

(ま、いっか。おにぎらずって流行ってるもんね。)

無理やりに海苔で形を整えた物体をタッパーに詰め込み、お次は玉子焼き。
ムギの家には例によって専用の四角いフライパンはなく、丸い小型のフライパンに溶き卵を流し込んだ。

じゅわっと小気味良い音を立て、卵に火が通ったところまではよかった。
しかし、フライ返しを手に卵を巻こうとした時に気づいた。

(……巻けない? あ、油引くの忘れた。)

しっかりフライパンにくっついた卵は、油を忘れたためにフライパンと離れるのを拒む。

(えーっと、えーっと、油……がない。そうだ、使いきっちゃってるんだった。)

とりあえずバターでいいかとフライパンの中へ放り込んでも、こびりついた卵は今さらどうにもならず、最終的に力ずくで引き剥がす。

焦げてはいない。
が、ところどころ千切れた卵はムギが目指した玉子焼きとは程遠く。

(……ま、いっか。スクランブルエッグにしよう。焼いた卵には変わりないんだし。)

ムギの諦めは早く、バターを溶かした卵をこれでもかとぐちゃぐちゃに掻き回す。
そぼろ状になった卵を詰め、茹でたブロッコリーとプチトマトを詰め、野菜の鮮やかさで誤魔化したらお弁当の完成である。

「できた。うん、意外と上手!」

海苔を巻きすぎた黒いナニカや、玉子焼きになり損ねたそぼろエッグが詰められていても、ムギの目には“上出来”なお弁当としか映らなかった。



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