第5章 見返りはパン以外で
お弁当といえば、なんだろう。
ムギが想像するお弁当とは、ふわふわ食パンの卵サンドや、コッペパンにソーセージを挟んだホットドッグなのだが、パンは使用禁止だという。
(いや、無理でしょ……。)
翌日の朝、ムギはキッチンで早くも不穏な空気を感じていた。
一応、ムギは努力の姿勢を見せた。
慣れない料理を作ろうと、滅多に買わない材料を揃え、メニューを考えてみたりもした。
人生で初めて米を買い、おにぎりくらいなら握れるだろうと海苔と鮭フレークを用意した。
しかし、ここで問題がひとつ。
ムギの家には、炊飯器がなかった。
なぜなら、米を炊かないから。
(うわぁ、どうしよう。ご飯って、炊飯器がないと炊けないじゃん。レンチンご飯買ってくる? でもなぁ……。)
昨今のインスタント技術は素晴らしいけれど、それでおにぎりを作るのはどうなのか。
チンしたご飯に具材を埋め込むだけなら、むしろ買ったおにぎりを詰めた方がマシな気がする。
だが、それではお弁当を作る意味などないし、第一、買ってしまったお米がもったいない。
(でも、今から炊飯器貸してくれるような友達もいないし……。いや、待てよ、土鍋ならあったな。)
切った具材をぶっこんで完成の鍋料理はよく食べる。
天の助けとばかりに土鍋炊飯レシピをネットで検索し、見よう見まねでチャレンジした。
30分後、綺麗に炊き上がった白米を見てムギは思わず歓声を上げた。
「すご……、わたし、料理上手なのかもしれない……!」
艶々の白米に感動し、これならばローを驚かせられるのではないかと錯覚を抱く。
そう、錯覚である。