第5章 見返りはパン以外で
その知らせが来たのは、昼休みのことだった。
バイトに行けなかったために、市販の食パンで作ったジャムサンドを頬張り、野菜ジュースのパックに手を伸ばした時、ケータイが短い着信音を鳴らした。
「あ、メール。」
何気なく手に取って、メールを開いてしまったのが運の尽き。
永遠に気がつかないフリをしていればよかった。
「うぐ……ッ」
「ど、どうした、ムギ!」
飲み込もうとしていたジャムサンドを危うく喉に詰まらせかけ、涙目になって咳込んだ。
「やっぱ、風邪が治ってないんじゃねぇの?」
「だ、大丈夫……。」
大丈夫じゃないのは、今開いたばかりのメールの方だ。
送り主は、連絡を寄越すと言っていたローである。
『明日、ここに行く。11時に駅前で。』
挨拶もなにもなく、用件だけの文章と共に、サイトのURLが送りつけられていた。
リトルガーデン動物園。
その名のとおり、動物園である。
ローと二人で動物園に行くこと自体が卒倒しそうなのに、目を疑ったのは次の文だ。
『弁当を作ってこい。』
作ってこいとは、ムギが?
まさか、それで雑炊の件はチャラだとでも考えているのだろうか。
(料理できないって、言わなかったっけ!? いや、待って、サンドイッチなら……。)
ムギの唯一の得意料理はサンドイッチ。
材料を切って挟むだけの素晴らしきお手軽料理。
しかし、そんなムギの考えなど見透かしているのか、ローからさらに追撃が来た。
『パン以外で作ってこい。』
パン以外、ということはサンドイッチも不可なわけで。
ローが求めた見返りは、動物園とパン以外のお弁当。
そんな見返りならば、お金を受け取ってもらう方が断然良かったと、お金が大好きなムギですら思った。