第5章 見返りはパン以外で
ムギの全快ぶりを確認したローは、口角をにやりと上げてこんな提案をしてきた。
「なら、明日は暇だな? 昨日の礼に、俺に付き合ってもらおう。」
「は……、え?」
お金を受け取ってもらうだけのはずだったのに、予想外の提案を受けて、ムギは目をまん丸にして驚いた。
「いやいや、なんでそんな話になるんです? 普通に受け取ってくださいよ。」
「金はいらねェが、見返りは欲しい。だから、明日は俺に付き合え。」
金はいらない、だと?
昨日はほんの一瞬だけローを理解できたような気がしたけれど、どうやらそれは錯覚だったらしい。
「見返りは是非、お金でお願いします。」
「いらねェと言ってんだろ。見返りの押しつけをすんな。俺に選ばせろ。」
「だって怖いですもん。お金より大事な見返りってなんですか!?」
「……お前には、金より大事なもんはねェのか。」
「ありますよ、失礼な。友達とか、パンとか、家族とか、パンとか!」
パンを二回言ったのはご愛嬌。
それだけパンを愛しているとわかってほしい。
しかし、ローからは引き気味の視線をもらった。
よくボニーからも受ける視線だ、それ。
「……とにかく、金は受け取らねェ。悪いと思うなら、明日付き合え。」
「ちなみに、どこへ?」
「そうだな……。ああ、電車が来た。またあとで連絡する。」
「え、嘘、このまま放置ですか?」
お金を返してすっきり終わらせたかったのに、ローはムギをホームに残して電車に乗り込んでしまう。
ガラス越しに不敵に笑ったローが離れていくと同時に、なぜ具合が悪いと言わなかったのか、なぜ用事があると言わなかったのかと、ひたすらに悔いてもあとの祭りである。