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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第5章 見返りはパン以外で




ムギの神経は、自分で思っていたよりも図太くできていたようだ。

ローのベッドを借りた時も、ローの微笑みを目の当たりにしたあとも、ムギは心を乱しながらもぐっすり眠った。

薬の効果もあって、翌朝にはすっかり元気を取り戻したムギだが、意気揚々とサンジに連絡を入れてみたら、「病み上がりが生意気言ってんじゃねェ! 薬を飲みきるまでは顔を見せるな!」と、サンジの電話を奪ったゼフに冷たくも温かい怒声を浴びせられてしまった。

処方してもらった薬は三日分。
身体は元気なのに、今日と明日はバラティエを休まねばいけなくなった。
明日は祝日でバラティエは忙しくなるのに、他の従業員には迷惑を掛ける。

とはいえ、バラティエを休むからといって自宅に籠もるのかといえばそうではなく、体調が快復した以上、学校へは朝から行く。

バイトがないから普段よりも二時間近く遅めに家を出て、いつもと同じ電車に乗れるように駅へ向かう。
ホームに着いて辺りを見回すと、本を読みながら電車を待つローを見つけた。

「……おはようございます。」

一度だって声を掛けたことなんてなかったのに、今日は自分から話し掛ける。
仲良くなったと驕ったわけではなく、単純に用事があったのだ。

「お前か。」

本から顔を上げたローは、嫌がる素振りもなくムギを見下ろす。
彼に見下ろされると、野獣に狙われた小動物にでもなったかのように落ち着かなくなる。

特に、ムギの脳裏には昨日の微笑みが残っていて、ローと目を合わせると心が無意味に乱れるのだ。

ムギが話し掛けたせいで、周囲の女子から何事かと視線を集めているし、ここは早いところ用件を済ませて退散しよう。



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