第2章 もう1人の…
虹村先輩は練習中だというのに途中で抜けてくれた。そんなに長い話はするつもりないのに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
虹村「で、話って?まぁなんとなく分かるけど…」
『あ、はい!今日の朝はありがとうございました。虹村先輩のおかげで遅刻せずに辿り着く事が出来ました』
虹村「気にすんな。にしてもお前、律儀な奴だな。俺今日何人か道教えたけど、わざわざ礼言ってきた奴はお前だけだぜ?」
『わ、それは礼儀知らずですね。あたしがボコボコにしておきます』
力こぶを作る仕草をしたけど、全然膨らまない筋肉を見て虹村先輩は笑ってくれた。
もう用事は済んだし、これ以上練習時間を削るわけにはいかない。
『あの、虹村先輩。練習は大丈夫ですか?』
虹村「あぁ…じゃそろそろ戻るわ。わざわざサンキュな」
『いえ!お礼を言うのはあたしの方ですから!本当にありがとうございました』
虹村「おう!あ、お前の名前聞いてもいいか?」
『もちろんです!むしろ最初に名乗らなくてすみません。1年1組2番、明石です!』
虹村「ぶはっ!そこまで聞いてねぇよ!けど、覚えちまったわ。俺は2年6組26番、虹村修造。学校生活で何か困ったら俺を頼れ」
何ともカッコいい言葉を残して虹村先輩は戻ってしまった。帰宅部のあたしにとってはありがたい言葉だった。
体育館をあとにして桃ちゃんの待つ昇降口へと走って向かった。
『桃ちゃん!ごめん、待った?』
「大丈夫だよ!少し前まで幼馴染もいたから!」
『あたしも桃ちゃんの幼馴染さん見たかった!』
「ふふふっ、今度紹介するね!それよりちゃん、何かいい事あった?」
『えっ、別に何もないよー!何でそう思ったの?』
「女の勘、かなぁ」
恐るべし、桃ちゃん。女の勘なんてものがあるなら、あたしにも使えるはずなんだけど。
ていうか、何であたしは虹村先輩の事を桃ちゃんに隠したんだろう。頼りになる先輩が出来た、ただそれだけなのに。
『2年6組26番、虹村修造先輩…』
「え?何か言った?」
『っ、ううん!何でもない!ほら、早く行こう!』
素敵な人だったな…