第2章 もう1人の…
「すまないね、座れなくて困ってただろう」
あかし君は群がっていた女の子達を、もう時間だから席に戻った方がいいよ、の一言で動かしてしまった。
『あかし君のせいじゃないよ。それにしても人気者はツライねぇ』
「ははっ、人気者などではないよ。初日から目立ってしまったからね」
やっぱりあかし君は綺麗に笑う。ずっと見ていた事に気付いたのか、あかし君は困ったように笑う。
「…オレの顔に何かついてるかい?」
『あ、ごめん。ただ、綺麗に笑うんだなって思ってたの』
「…」
『あれ?どしたの?綺麗って言われるの嫌だった?』
あかし君は急に黙ってしまった。しかも何か目を見開いて。ちょっと怖いんだけど。
だけどすぐにふっと笑ってくれた。
「嫌いじゃないよ。ただ少し複雑だけれどね。あまりにもあかしさんが普通に言うから、ちょっとびっくりしただけだよ」
『普通に?』
「大抵は影で言われたりするんだけど、直接言われた事はないんだ」
何でだろう。影で言うくらいなら直接言ってあげればいいのに。悪口じゃあるまいし。
『へぇ〜。あ、てかあかし君は漢字どうやって書くの?』
「…こうだよ」
あかし君はあたしの手を掴んで、掌を上に向けた。そしてその上にあかし君の綺麗な指で文字を書く。
赤司
どうやらあかし君は赤司君らしい。途中女の子たちの悲鳴が聞こえたけど、何だろう一体。
『へぇ〜、あたしの漢字とは違うんだね!』
「あかしさんのはどう書くんだい?」
赤司君はオレの手にも書いてくれと言わんばかりに掌を差し出した。あたしは指だけでなく掌まで綺麗な赤司君の手に、ゆっくりと名前を書いた。
明石
「そう書くんだね。改めてよろしく、明石さん」
『こちらこそよろしくね、赤司君』
あたしたちは2度目の挨拶を交わしたのだった。