第5章 いつかその花を手に入れる*黛千尋
「先生に食べて欲しい、って言ったら怒るか?」
念を押して少し強めに卵焼きを押し付けると、先生は観念したように笑い、俺の手に自分の手を添えながら大きく口を開いてパクリと一口で食べた。
先生に手を握られる上に関節キスまでできるなんて、今日はどうやらついてるらしい。
先生はモグモグと何回か咀嚼したあと飲み込み、俺はその様子をじっと見つめていた。
そんな俺と目が合うと、ふわりと笑いながら
「すごく美味しいね。」
と言ってくれた。
さっき先生に握られた手はまだ熱を持ったように熱く、俺の先生への想いの強さが表されているようだった。
「先生、好きだ。」
保健室に通うようになってから何度目かのこの言葉を発する。
想いが昂ぶると自然と口にしてしまうのだ。
先生は少し目を見開いたあと、綺麗に笑って
「私も、大好きだよ。」
そう言った。
ガキの戯れ言だと思って、そう言っているのだろう。
俺はいつでも本気なのに。
それでも、この人と一緒に居られるならそれでもいい。
卒業したら振り向かせるだけだ。
そう密かに決意しながら、お弁当の残りを食べ始めた。