第3章 怪我の原因*氷室辰也
無言のまま辰也に抱きついていると、辰也は少し笑いながら私の頭を撫でた。
「咲良、返事は聞かせてくれないのか?」
聞かなくても分かってるくせに。
いつも紳士的で優しいのに、こういう時だけ少し意地悪な辰也。
そんな辰也を見上げて、辰也の唇に自分のそれを重ねる。
「私も、辰也のことが好き、です…。」
すると、辰也は少し驚いたように目を見開いた後、すぐに笑顔になった。
「なら俺の彼女になってくれる?」
「喜んで。」
自分のできる最上級の笑顔でそう告げる。
そして、辰也の頬にあるガーゼの上から小さく口付ける。
すると、ちょっと痛かったのか右眉を少し顰めた。
私のために作ってくれた傷とは言え、もう辰也が傷付くところは見たくない。
そんな意味を込めてのキスだ。
すると、辰也も分かってくれたのか、もう絶対にしないよ、と微笑みながら約束してくれた。
その間の大我はと言うと、真っ赤に染まった顔を両手で一生懸命隠しながら待っていたらしい。
あんまり女の子慣れしていない大我から後で、
あんまり俺の前ではしないでくれ…、とお願いされた。
そんな大我を可愛い!と抱き締めて辰也から怒られたのは、また別の話。