第3章 怪我の原因*氷室辰也
「いててて…。」
消毒液が染み込んだ綿を頬の傷に当てると辰也は整った顔を顰めた。
大我は隣で、大丈夫かよ?と心配そうに辰也の顔を覗き込んでいる。
こうなったのはついさっきのこと。
端正な顔をして意外と喧嘩っ早い辰也を、大我が支えながら私の家に乗り込んできた。
また喧嘩したの?と呆れたように聞けば、
少し揉めただけだよ、と微笑んで言う。
それを喧嘩と言うのだけれども…、
だけど辰也があまりに有無を言わさない様子で言うので敢えて突っ込まないでおくことにした。
「はい、終わり。しばらくガーゼ取っちゃダメだよ。」
「分かった。ありがとう、咲良。」
「どういたしまして。」
よかった。
今回の傷は浅くて数日でかさぶたになって消えていきそうだ。
傷口にガーゼを貼り終えると、辰也はお礼を言って私の頭を優しく撫でた。
「もう喧嘩しちゃダメだよ。」
「あぁ、分かってる。もうしないよ。」
この約束はこれで2回目だ。
前回はあまりにも傷だらけで帰ってくるので見かねた私が泣きながらお願いした。
それが相当効いたのか、それからしばらく喧嘩はしていなかった。
なのに、何故今日に限って揉めたのだろうか。