第11章 「ノビル/セイヨウカラシナ」
『ハンカチは?』
「そんな気の利いたもの持ってない」
元行き倒れだから当然か。
さやかはパーカーのポケットから
タオルハンカチを出して、リヴァイに渡した。
「ありがとな」
濡れた手を拭ったハンカチを
返されたが、それでも風にさらされた
手は痛々しいほどに赤い。
その痛々しさでつい
.......やってしまったのだと思う。
リヴァイの両手を包み込むように握り、
冷え切った手に息を吹きかけていた。
冷たい肌を温めることにむきになり、
包んだリヴァイの両手をあちこちさする。
手強いのが指先だ。
手の体温はもう取られてしまった。
リヴァイからは何も言わなかった。
言わなかったからうっかり
やることが大胆になった。
長い指先を重ねたまま顎と
鎖骨の間に挟んでしまう。
首元に触れる指で体温を測る。
少しはぬるくなったかと思った頃、
リヴァイが意を決したように口を開いた。
「......おい、動揺しそうなんだが」
言われて自分が何をしているか気づいた。
悲鳴を上げてリヴァイの両手を突き返す。
『ご、ごめん!冷たそうだったからつい!』
俯いた自分の顔が
火照っていることは分かったが、
リヴァイは置いた荷物を
拾い集めるのに屈んでしまい、
どんな表情をしているのか窺えなかった。
〝動揺しそう〟少しは私のこと、
異性として意識はしてるのかな。
日頃の態度を見ていると
とてもそうとは思えない平静さなので、
一瞬垣間見せたシッポがちょっと嬉しい。