第4章 「ヘクソカズラ」
『何これ......すっごい......』
キレイ、と続けられなかったのは、
毎年悪臭に悩まされつつ
草むしりをした遺恨だ。
中心が上品なえんじで
ふわりと染まった、
フリルのような
カッティングの入ったベル形の小花。
それがつるの至るところに
咲きこぼれている。
「臭いがクソみてえなのは
相変わらずだがな。
花の姿の愛らしさは雑草の中でも
かなり上位に入ると思うぞ。
こんなに花がきれえなのに
ヘクソカズラはかわいそうだって
思う人もたくさんいたんだろうな、
別名もあるぞ。
サオトメカズラにヤイトバナ。
花の愛らしさや特徴を
採ろうとした名前だろうな」
サオトメカズラは何となく分かる。
可憐な花に合うイメージの名前を、
ということだろう。
『ヤイトバナっていうのは?』
「ヤイトってのはお灸のことだ。」
リヴァイは花を一つだけ摘んで、
逆さまにしてさやかの手の甲に立たせた。
「どうだ、中心の赤色が
お灸の火みてえだろ?
見立てでつけた名前だろうな」
『でも定着しちゃったのは
ヘクソカズラなんだ?』
「一番インパクトのある特徴と
名前が人口に膾炙した一例だな。
ヘクソカズラって聞いた後に
サオトメカズラとかヤイトバナとか
聞いても印象薄いもんだろ。」
『......確かにね』
......それが
ヘクソカズラに関する二人の物語だった。