第1章 恋して、ヴァンプ
「で、さ、不審者でるらしいよね」
「不審者?」
「そうそう。凛のアパート近くじゃない?昨日大丈夫だった?」
「……大丈夫、みたいね」
「あんたかわいいんだから、気をつけなよー?」
ケラケラと笑い飛ばす凛の友人、未琴さんの意見に俺も賛成だ。
ふたりの会話を廊下で聞きながら、凛が無事でいることにほ、と心底胸を撫で下ろしてから。
そっとふたりのもとへと足を向けた。
ドクンっ
その瞬間に聞こえた、俺ではない心臓の、大きく跳ねる音。
「おはよー、凛ちゃん」
構わずに後ろから彼女へと声をかければ。
「翔琉っ」
まるでスローモーションのように、彼女の振り向きが美しくキラキラと写し出された。
よかった。
ちゃんと、生きてる。
「凛」
にっこりと凛を見下ろして。
キョトンとする彼女の両手を逃げられないように握る。
「昨日凛、何してた?」
「ぇ」
そのまま笑顔を崩さずに凛へと向き直れば。
気まずそうに未琴さんがそっと足を後退させた。
「はい捕獲、キミもね」
「……」
そのまま後ろ襟をぐい、と捕獲。
逃がさない。
もとはと言えばキミが原因なんだから。
「で、昨日キミたちは何してたの?」
もう一度。
同じ言葉をやっぱり笑顔で、口から出せば。
「なんでバレたんだろう」
「さぁ?地獄耳なんじゃん?」
「凛!未琴さん!!」
反省の色を微塵も感じない、ふたりの内緒話。
しかも全然ヒソヒソしてねーし。
「………飲み会に、参加しましたすみませんっ」
ふたり気まずそうに視線を合わせて。
彼女は一気に頭を下げた。
「未琴さん、同じ大学は駄目でしょさすがに」
「えー、だって学部違うしこの大学広いし」
「俺が凛のことで知らないわけないじゃん。広さ関係ないし」
「……あ、そ」
「あの、翔琉、そろそろ手、放して……」
ギロリ、とひとにらみすれば。
「くれないよね、すみません」
あはは、なんて渇いた笑いをこぼしながら視線を泳がせる凛ちゃん。
まったく。
凛ちゃんは自分がいかにかわいいかもっと自覚した方がいいよね。
うん。
とりあえず。
講義が始まるまでは腕の中から出さないでおこうかな。