第1章 恋して、ヴァンプ
翔琉のそれとは、また違う低い声で呼ばれたと思った瞬間。
目の前には、翔琉の、腕。
顔だけ振り向いて翔琉を見上げると。
かなり至近距離で絡み付く、視線。
いつの間にか、あたしを囲うように翔琉があたしの上に跨がっていた。
「な、に?」
「それ、嫉妬?」
「は?」
「俺が他の子の血飲むの、そんなに嫌だったんだ?」
「別に……っ」
「いいの?他の子の血、貰って」
「………っ」
「かわいいなぁ、凛は」
ふ、って。
笑う気配が、して。
子供扱いされた事実に、血液が一気に体を駆け巡った。
「凜の味を知ったら、もう他なんて欲しくないよ。」
「ちょ、っと、翔琉?」
ちゃ、って。
大袈裟に頬っぺたへとキスを降らせ、翔琉はごろんと、あたしの隣へと横になる。
「さっきから凜の血の匂い、我慢してたんだけど。それくらい動けるならもう、いいよね?」
よくない。
よくないよ、絶対。
「凜」
そんな瞳で見ないで!
潤ませないで。
揺らさないで!
「…………無理っ、絶対、無理………………っ」
「噛まないから」
「無理、あたし死んじゃうし」
「あはは、死なせないってば」
「疲れた、寝る」
「あんなかわいい顔しちゃって。寝れると思ってるー?」
「寝る!!」
「凛」
紅い瞳。
「かけ、る?」
凛々しく自信に満ちたその表情に。
怪しく色香を纏うその、佇まいに。
吸い込まれそうな深紅の瞳から、目が離せない。
瞬きすら忘れるくらいに、美しくて。
息を飲むほど、キレイで。
「もう一回、凜のこと喰わせてよ」
低く、呻くようにそう呟くと。
翔琉は言葉どーり唇に噛みついて、呼吸まで取り上げると言わんばかりに。
あたしの舌を吸い上げたんだ。
覆い被さるように、頭の真横に固定された腕。
そのままあたしの額まで伸ばした右手に押さえつけられているせいで身動きが取れない。
左手は。
頭を解くように、撫で付ける。
自分のなのか翔琉のなのか、わからないけど、口の中の唾液は少しだけ、血の味がした。