第1章 恋して、ヴァンプ
……ドクン
ドクン ドクン ドクン
血を、あたしに?
翔琉の、血?
それって。
もしかして。
「あたし、あたしは……っ」
聞きたいのに、答えが怖くてその続きが出てこない。
肯定されるのが、怖い。
「………」
目を細めて頭を撫でる手は、休むことなく動いたまま。
だけど。
一瞬だけ空いた間が、数時間にも思えた。
「ドラマみたいに、噛まれたくらいじゃヴァンパイアになんてならないよ」
ふわりと微笑む翔琉の笑顔が、じんわりと暖かく体に浸透していく。
「凜ちゃんは、人間だから」
凜ちゃん『は』?
得体の知らない何かになったかもしれない恐怖を一瞬で払拭してくれた翔琉の言葉に。
新たに根付く、疑問。
いや、確信。
「翔琉は、人間じゃない、の?」
「……怖い?」
横たわったままのあたしの頭を撫でながら。
遠慮がちに伏せられた瞳を視界いっぱいに捉えた。
「怖く、ない」
怖いか、怖くないか。
と、聞かれれば。
はっきり言って『怖い』。
人間なんて、自分たちと明らかに違う存在には、無条件で敵意剥き出しにするような生き物だもん。
だけど。
目の前にいるのはあたしの知ってる大好きな翔琉そのもので。
いくら『人間じゃない』なんてカミングアウトされたからって。
頭がそれをすぐに認識できるほど、頭の回転が早い方でもない。
だから。
「怖くないよ」
はっきりとそう視線を翔琉に預けると。
翔琉は嬉しそうに目を細めて笑った。