第1章 恋して、ヴァンプ
だって、他に方法がなかったから。
取り乱すキミを落ち着かせる方法が、わからない。
混乱するのはもっともだと思う。
だけど仕方なかったんだ。
キミを助けるためには、仕方なかったから。
だからわかって。
凛ちゃん。
「ねぇ翔琉、それっ、て……」
お願い、怯えないで。
怖がらないで。
「あたし、あたしは……?」
「……」
少しだけあけた、間。
彼女の喉が上下に動いた。
「ドラマみたいに、噛まれたくらいじゃヴァンパイアになんてならないよ」
恐怖に怯える表情に広がる安堵の色。
払拭された不安の代わりに芽生えた疑念の瞳。
それはありありと、剥き出しにされた感情のままに向けられた。
「翔琉、は?」
「凛ちゃんの、想像通りだよ」
「……っ」
「俺『たち』の血、はね、凛。人間のそれなんかよりもずっとずっと、濃いんだよ」
人間の体内に入って、中から傷を修復するくらいどうってことない。
ヴァンパイアの血を飲めば、不老不死になれる、って迷信まであるくらいだ。
だけどそれは些細な傷。
死を間近に控えた傷を治すには、大量の血液が必要になる。
だから。
血液のほとんどを失った凛の体には大量の血液が必要だったから。
今、凛の体内に流れる血液のほとんどは、俺の血。
つまり。
ヴァンパイアの、血液だ。
まぁもっとも。
人間に太古の昔から伝わる能力、治癒能力によって、大半の血液はすでに凛の血へと変換されているはずだ。
それでも。
結果的に、一時的でも凛をヴァンパイアへと変えてしまうくらいの威力は、残っているのだ。
「凛ちゃんを助けるためには、他に方法がなかったんだよ」