第1章 恋して、ヴァンプ
「大丈夫?凜ちゃん」
「………」
浮上する意識とともに視界にうつりこんだのは、心配そうに覗きこむ、翔琉の栗色の瞳。
「………っ」
瞬間的に、恐怖に引き連れた顔面の筋肉を自覚する。
「怖がらないで、凜ちゃん」
違う。
怖くなんかない。
翔琉は、翔琉なんだから。
怖い、とかじゃなくて。
はっきりと記憶に残る様々な感覚に、起き上がれない自分の体を横になったまま、抱き締めた。
「はじめてだからね、今日はもう、起き上がるのは諦めた方がいいよ」
「なに、したの?」
確かめるように自分の首筋に手を伸ばすけど。
『そこ』はなにもなかったかのように、キレイだった。
「なんで………」
確かに。
ここに牙を突き刺された。
牙が肌を突き破って入り込んでくる感覚が、まだ体に残ってる。
「『噛み痕』なら、ちゃんと治したよ」
『噛み』、痕。
やっぱり。
やっぱりあたし、噛まれた。
「俺の家」
キョロキョロと回りを見渡すあたしの行動を受け止めるように、ぎし、っとベッドを軋ませて、翔琉はそう、答えながら腰を下ろした。
「あのあと、凛ちゃん気失っちゃったから」
『あのあと』のあたりから、勝手に上がっていく体温。
そうだ。
あたし大学でなんてこと……っ。
「大丈夫、あれは凜のせいじゃないよ」
「え?」
「抑えられなかった、俺のせいだから」
横になるあたしの頭を撫でながら。
翔琉は愛おしそうにいつも、こうやって目を細めるのだ。
「初めて飲んだ凛の味に、匂いに、我慢出来なかった」
「……」
「俺たちの『それ』は、ね。体内に取り込むと即効性の媚薬へと変化するんだよ。最も、自分が心から欲する相手だけに効果が表れるんだけど」
びや、く?
「だから凛ちゃんがああなっちゃうのは、仕方ないことなんだよ。むしろ俺が抑えなきゃいけなかったわけだし」
「……意味が、わかんないんだけど」