第1章 恋して、ヴァンプ
「ん……」
あれ。
ここ、どこだっけ?
あたし、どーしちゃったんだっけ。
ぼんやりとする意識のままに、視線だけ泳がせれば。
「凛」
聞き覚えのある低く透き通る声、が。
耳から脳へと、響いた。
「かけ、る」
………っ。
視線が、頭が、翔琉の姿を認識した途端に。
反射的に弾かれたように上体を起こす。
「翔琉!?」
「うん、凛ちゃん」
なんで。
あれ、さっきあたし、何したんだっけ。
「翔琉…無事、なの?」
そ、っと。
翔琉の首へと指先を回そうと、すれば。
翔琉に触れる前に、その手は彼につかまった。
「凛ちゃん、熱中症で倒れたんだよ?大丈夫?未琴さんもさっきまでいたんだけど」
「未琴?熱中症?」
ああ、そっか。
だからあんなに喉、渇いてたんだ。
そーいえばもう、驚くくらいに体が軽い。
そっか。
熱中症。
じゃぁあれ、は。
夢?
「凛ちゃん?」
………違う。
夢なんかじゃ、ない。
口の中に広がるこの味は。
血……!?
ゲェ、ゴホッ
認識した途端に襲う、物凄い吐気と嫌悪感。
「凛ちゃんっ」
「ぃや……っ、触んないで!!」
のざえるだけでなんにも逆流してこない。
出てくるのは唾液のみ、で。
手のひらについた『赤い唾液』に、さらに血の気が引いていく。
「凛」
やだ。
違う。
こんなの、違う。
こんなの、現実じゃ、ない。
だって。
だって血が、美味しい、なんて。
甘くて。
濃厚で。
まるでチョコレートみたいに、ドロドロに溶けたスィーツみたいで。
そんなことあるはず、ないのに。