第2章 序章
「はぁ…、はぁ…っ、…っ」
暗い山の中をひた走る。
背後からは異形の者が追ってくる。
(なんで…なんでこんなことに…!)
「ハハハハ!待て待て人間!俺の力のひとつとなれぇ!!ハハハハハ!!!」
肺が痛い。身体のあちこちが悲鳴をあげてるのがわかる。
とうに限界など超えていたのだ。
しかし、ここで足を止めれば家族のように喰い殺されてしまう。
(誰か…っ!誰か助けて…!!)
必死に獣道を走り抜けていると、突然頭上から「伏せろ!」と大きな声がした。
硬いものと硬いものがぶつかり合う音に背後を振り向くと、そこには背に"滅"と書かれた黒い服を着た人物がいた。
「よく耐えた!こいつは我々鬼殺隊が引き受ける!君は麓まで降り――」
「無駄だ鬼狩り!お前のような弱っちぃ奴が俺を狩れるわけねぇだろぉがァ!!」
ようやく来てくれた助けは目の前で殺された。
――嗚呼、まただ。
私が望んだものは、いつだって尽く私の手をすり抜けていく。それは希望ですら例外ではなく。
瞬間、私の胸を埋めつくしたのは"怒り"だった。
何故私ばかりがこんな目に遭う?なぜ私の望みは尽く打ち砕かれる?私が何かしたのか?
近くに落ちてきた刀を手に立ち上がる。
「私から何もかも奪うというのなら…奪い返してやる…。これ以上…ひとつだって奪わせてなどやるものか…!!」
一瞬脳裏をよぎった、見たことも無い…けれども懐かしさを感じる映像。何かと戦っている場面だった。
――刹那。
赤い色をした刀身に小さいながらも黒く揺らめくものが宿った。
身体が自然と動く。瞬時に"それ"を理解したかのように。
影の呼吸 壱ノ型 月影斬
上から下へ刀を一閃。月に照らされた影の様に影が淡く残り、斬りつけたところから敵へ侵食していく。
(ダメだ。浅い)
一度敵から離れ、低く構え直す。