第6章 帰還と謁見
「それでは本当に短い間でしたがお世話になりました!」
「気をつけて帰るんだぞ」
「はい!」
無事に水の呼吸を習得し、師匠の元へと帰る前。見送ってくれるという鱗滝さんから贈られた狐のお面。右の口元あたりに桜の花がひとつ描かれている。
「あの、これは?」
「厄除の面と呼んでいる。儂の弟子たちに贈っている物だ」
「なるほど…。かわいい…」
早速身につけてみる。これはなかなかいいのでは…?気に入ったぞこのお面…!
「ありがとうございます鱗滝さん!大切にしますね!!」
そして鱗滝さんと別れ、私は師匠の元へ向けて踏み出した。
もう少しで着くという所まで来て師匠の小屋に違和感を感じた。近づくにつれてそれは確信へと変わり、入口の辺りや周辺に壊された跡があった。
「師匠!?」
逸る気持ちを抑え小屋の中を覗き込む。すると、そこには何事も無かったかのようにしている師匠がいた。
「あ?…嗚呼、神影か。存外速かったな」
「え、ええ…まぁ…。――じゃなくて!師匠、この家の有り様はなんなんですか!?」
「煩ぇな。夜中に鬼が襲ってきただけだ」
「襲ってきただけって…」
「んで?帰ってきたってことは水の呼吸は会得出来たんだろうな?」
なんだかはぐらかされた気がしなくもないが、明らかに"それ以上は聞くな"という雰囲気を感じ取ったので追求は諦めた。
「ちゃんと壱ノ型、使えるようになりましたよ」
「どのくらいかかった?」
「あー…だいたい1日でした」
「1日、か…」
神影の返答に闇裂は思案した。呼吸法とは、本来時間をかけて習得するものである。それをたった1日で会得できるものなのか。否、そのような話など聞いたことは無い。それは例え、剣士の才にいくら恵まれていたとて例外ではないはず。
それこそ前世が呼吸法を扱う剣士であり、尚かつその記憶を受け継いででもいなければ――。