第5章 水の呼吸
「それではこれより水の呼吸の習得を開始する」
「はい!」
休息をとった後、刀を持って連れてこられたのは先程とは違いある程度拓けた場所だった。中心には大樹が聳えたっており、その周りを囲うように大岩が置かれている。
「大樹の周囲に置かれたこの大岩を刀で斬れ。斬れたら儂の元での修行は完了とする」
「……え?」
この人、今なんと言った?
(刀でこの大岩を斬れ…?)
視線を向け凝視する。そこに鎮座するは、物凄く硬そうな大岩。
「これを…斬るんですか…?刀で…?」
「左様。…そうだな。助言をするのであれば、水とはどのようなものか。それを常に思い浮かべろ」
それだけ言うと、開始!と言って姿を消してしまった鱗滝さん。
「…いや、それって助言とは言えんのでは…?」
1人取り残された私はぽつりとそう呟いた。
「だー!!無理!出来ない!!」
開始から約数時間、大岩相手に悪戦苦闘していた。そろそろ刃こぼれしそうで怖い。
(何がダメなんだろう。太刀筋?それとも姿勢?腕力の問題?)
服が土で汚れるのも気にせずその場に仰向けで寝転がる。既に日は落ち、空には優しい光を放つ月がぽつんと浮かんでいた。
「水とはどのようなものか…か」
開始直前に鱗滝さんから受けた助言らしからぬ助言。深呼吸をし、目を閉じ、改めて「水」を思い浮かべてみる。
水とは、ある時はせせらぎ緩やかに流れ、またある時は激しい激流となり全てを飲み込む。まさに変幻自在。
「ん…?激しい激流となり…時には…岩をも砕く…?」
何か、掴めそうな気がする。今ならやれるかもしれない。
起き上がり大岩と向き合う。刀を構え、呼吸を整える。
(集中しろ…。今なら、きっとやれる…)
全集中 水の呼吸 壱ノ型 水面斬り
そして大岩は中心に美しい一閃の跡を残すかのようにパッカリと2等分になった。
「や…った?」
見事割れた大岩をみて、神影はへなへなと座り込んだ。