第1章 駐屯兵団にて
「そうか、それは残念だな」
苦笑交じりの声が聞こえた瞬間、エリナにとって好ましい状況ではないのは分かった。
「エルヴィン分隊長!!」
とっさに、いつもの数倍力強く心臓に手を当てた。衝撃で心臓が止まれと願いながら。その後ろで、引きつった顔のアイも敬礼をしていた。
「この後きみは非番だと聞いていたが、そうなのか?」
だとしたら何なのか。気が付けばエルヴィン分隊長の背後にミケ班長とカルロもいるではないか。ミケ班長もさっきの会話を聞いていたのだろう、長身から覗く顔は馬鹿にしたような笑みをたたえていた。これはマズイ・・この顔は“こいつも俺のものになったぞ”きっとそう思っているに違いない。違うんだ、貴方に興味はないと叫びたい気持ちを堪える。そのさらに背後ではカルロが目線を合わさぬよう明後日の方を見ていた。どうやら助ける気はないらしい。
「ええ、非番なので帰るところです」
その答えを聞いたエルヴィンの表情は明るかった。
「ちょうどいい、一緒に昼食でもどうだ?」
思ってもみない言葉に驚いたのか、上官には楯突くなという兵士の性分か
「喜んで!」
エリナは即答した。
「そうか、行こう」
背を向けたエルヴィン達の背後で、声を出さずに頭を抱えながら叫んだのはアイしか知らない。