第5章 月刊『壁男』と夜会
―――844年12月
エリナは重い書物を背負い、愛馬を走らせていた。
早く、この書物を届けなければ・・。
分厚い外套を羽織っていても馬で駆ければ冷たい風が体温を奪っていく。
急ぎで手袋を忘れた手は、手綱を握る感覚がなくなっていく。
早く、早く・・。
あの人に・・逢いたい。
「ハンジさぁぁーん!」
調査兵団の門前まで迎えたハンジの姿をみて、エリナは相好を崩した。
「エリナ!わざわざゴメンね!」
迎えるハンジも両手を広げてエリナを歓迎した。
飛び込んだ胸は温かく、先ほどまでの凍える行程がウソのように温められる。
「いえ、ハンジさんとゆっくりお話しできるのは数か月ぶりですもん。楽しみで楽しみで!」
最後にハンジさんとちゃんと会話できたのは、9月中旬だっただろうか。リヴァイと演習場で会い、その足でハンジさんの研究室に向かって話したのだ。その時にマスロヴァ技巧長との共同研究という形に持っていけなかった事を陳謝し、リヴァイと出会ったことも伝えた。
「そっかぁ。リヴァイは地下街の仲間2人を今回の壁外調査で亡くしたからな」
ハンジの口から伝えられた不幸は、リヴァイの哀しみが宿った瞳を思い出させ
―――・・・いない ―――
地下街の仲間2人について聞いた時の彼の返事を反芻させた。
それから演習場でリヴァイに会っても悔やみの言葉は言わずに、時々雑談 ―といってもエリナが一方的に話す― をして過ごした。そんなに仲が良い訳でもない自分が悔やみの言葉を伝えたり、地下街について話したりする事でリヴァイに不幸を思い出させたくもなかったのだ。
あれ以来、お互いに多忙でゆっくりと話すこともできなかった。そんな時にハンジから手紙が届き“今度、お茶でもゆっくりしよう”とお誘いを受けたのだ。エリナはこの日を心待ちにして過ごしていた。
「エリナ、重そうな荷物だなぁ!何が入ってるの?」
ハンジは腕の中で甘えるエリナの、やたらに膨らんでいる荷物を見て不思議そうに触れる。
「これは、ハンジさんとのお茶で食べるお菓子と、果物と、ハンジさんへのプレゼントの石鹸と、リヴァイに貸す本です!」
「私へのお茶請けにプレゼントは分かるけど、リヴァイに貸す本って何?」
「それは・・」