第4章 思いがけない喪失
「調査兵なんかになると、人を愛するのが怖いとか死ぬことを後悔してしまうとか言っている人もいる。
けど、私そうは思わないの。」
ペトラさんは優しく微笑みながらゆっくりと語りかけるように言う。
「人を愛するのことができるって素晴らしいことだと思うの。
その人がいるだけで暖かい気持ちになれたり、その人が居てくれるだけで勇気が湧いてくる。
それって、誰にでも感じることじゃないでしょ?
だから、私はこの気持ちを大切にしていたいの。
……たとえ、自分が死んでしまっても。」
「ペトラさん…。」
いくらペトラさんが優秀な兵士だからといって、今日の壁外調査で死なない保証なんてどこにもない。
なのに、どうしてこんなに強く居られるんだろう。
それはやっぱり、人を愛することができるからなのだろうか。
私の頭に優しく手を添えて左右に撫でる動きをする。
その時もペトラさんは笑っていた。
「シャーロットが悩んでるかどうかも分からないけど、これだけは言わせて。
シャーロットが人を愛してはいけない理由なんてない。
誰でも平等に誰かを愛する権利を持っている。
私だって手の届かない人に恋してる。けど、想うだけなら自由でしょ?」
エレンのことが好きだなんて一言も話したことないのに、ペトラさんは私がエレンのことが好きだという前提で話を進めている。
それでも反論する気になれないのは、私がエレンを愛しているからなのだろうか。