第50章 それもまた貴方
自分の家からアジトまではそう遠くない。
小さな手提げを持っているだけで、重い物などない。
ありがたい事に靴を履いている。
『アジトへ行くのにこんなに足取りが重いなんて・・・』
体力に自信があるリサは走る。
アジトへ行けばきっとリヴァイは帰ってきている。
──そんな息乱してまで走ってんじゃねぇ
そう言って、不器用な笑顔を見せてくれる。
タンタンタン・・・
何度も登った階段を上がる。
胸に手を置き、呼吸を整える。短い呼吸から始まり、ゆっくりとした大きな呼吸に変わる。
ノブを触ると鍵は空いている。
『・・・リヴァイさん・・・帰ってます・・・か?』
数センチほどだけ扉を開け、覗き込むように部屋を見渡す。少し薄暗い部屋は誰かがいる気配がしない。
『おい・・・』
『ひゃぁ!!』
リサの背後からリヴァイは声を掛けると、肩に手を置く。逆にビックリするぐらいの反応にリヴァイはすぐに手を離す。
『良かった・・・リヴァイさん帰って来て・・・っえ・・・?』
『・・・リサ』
笑顔でおかえりなさい!とリサは言うつもりで振り返る。緩むはずの目元は丸くなる。
胸が締め付けられるのは愛しさのせいではない。
ドクンと大きく鳴るのは・・・恐怖。
何も言えず口元を押さえた。
『俺が・・・怖いか?悪い・・・シャワー浴びてから会うつもりだった』
リヴァイは返り血を浴び、白いシャツは赤く染まり黒ずんでいる。手の甲で頬を拭うとリヴァイの甲は赤くなり、チッと舌打ちした。
血を見たことが無いほどのお嬢様ではない。
リサは地下で嫌と言うほど見てきた、血の跡。
オレグの時もリサを守るために憲兵を傷付けていたのを見た。
それなら、何故今のリヴァイを見てリサは恐怖を感じたのか。
返り血の多さ・・・臭い・・・それだけではない。
『・・・リヴァイさん、もしかして・・・人を殺したんです・・・か?』
『・・・・・・・・・あぁ』
リサは、恐怖の先を理解した。