第49章 通行証と髪留め
『あー・・・ちょっと急用が出来たからアジトを出てる。まぁ・・・明日には帰ってくると・・・いいが・・・な』
歯切れの悪い言い方にリサは首を傾げる。
『なんだが、それってファーランさんの願いですよね?帰ってくるといいなって・・・帰ってこない場合があるんですか?』
リサの真っ直ぐな目にファーランは珍しく言葉が濁せなくなる。
嘘をついても仕方ないことだからと、ファーランは説明した。
『そ、そんな危険なところに1人で?!この髪留めの宝石自体が盗難品だったなんて・・・。リヴァイさん、大丈夫でしょうか・・・イザベルがされた事は許されることではないけど・・・』
『・・・大丈夫だと信じるしかない。リサが待っていると思えばリヴァイは片足がなくなっても戻ってくるよ』
『そ、それはそれで困ります・・・。リヴァイさん・・・まさか殺し・・・なんてしませんよね?少し懲らしめるだけですよね?』
『・・・かなり怒り心頭だったけどな』
リヴァイはリサと出会う前は殺しをしたことがあると言っていた。今はリサを想い、最悪の事態を避けてきた。それはファーランもイザベルも。
生ぬるいと言われても、誰かが言うわけでもなく自然と殺しはしなくなっていた。
仕事、それなりの生活が出来るだけの金があればそれで良かった。
『私、アジトへ行ってみます。ファーランさんはイザベルの近くにいてください。リヴァイさんやファーランさんは特別だから、きっとイザベルの近くにいても大丈夫だと思います』
『あぁ・・・わかった。もう少ししたら薬も飲ませたいからな』
『キッチンも好きに使ってくださいね』
『ありがとう。少し借りるよ』
イザベルを起こさないように、急ぎめに用意をしていく。
『それでは、行ってきます!』
ファーランは少し不安だった。
リサが自分たちとは住む世界が違うと怯え、そして離れていくことを。彼女にあの条件を飲ませ、いつでも手放せるようにしているのに、引き止めたい願望もある我儘さ。
バタン・・・
『リサ、どうか俺達を怖がらないでくれ・・・』
閉まった扉に向かって、ファーランはぽつりと零した。