第41章 父と母
『爺さん、ちょっと手を見せてくれ』
『えぇ、どうぞ。ただの年寄りの手ですよ』
『ただの年寄りが・・・こんな手をしてるか?』
差し出されたアーヴェンの利き手をリヴァイは手首を掴んでリサに見せる。
アーヴェンの手は老人の平均的な手よりも厚みがあり幅と指が長い。日常的にトレーニングを積んでいたのか、リヴァイは掴んでいた手首の骨も太くなっているのに気づく。
『どうみても何か格闘の心得がある手だろ?確認するまでもなく体も普通の老人とは違うはずだ』
『さすが、リヴァイ様』
掴まれていた手を離されるとアーヴェンは、年寄りは労わって欲しいですねと笑う。
『これでもミッシェル家の執事です。クララ様やディック様の身を守る為には私のような護衛兼執事が必要だったのです。窃盗団や誘拐犯などから守る使命があります』
『アーヴェンさん、リヴァイさんは・・・』
『理解しておりますよ、リサ様。リヴァイ様の事は調べ済みですから。リサ様に危害があるような方達であればとっくに貴女様を連れ出しております』
『そ、そうですか・・・それならいいんです』
リサは胸を撫で下ろす。
『まぁ、そういうことだ。だから爺さんと留守番をして待ってろ。地下の食い物なんて貴族の執事様の口に合わねぇだろうけどな』
『あ、あの!アーヴェンさん!リヴァイさんは地下の食べ物は高級品じゃないし、パンも固くて食べにくいかもしれないから、お口に合わなかったらごめんなさいって意味で言ってるんですよ!』
相変わらずの口下手なリヴァイにリサはアーヴェンが気を悪くしないか心配になり、慌ててフォローをする。
『ほっほっほ!リサ様はリヴァイ様の通訳ですな。ご安心くだされ。長く生きていると色んな方々と接します故、口調や態度、腹の奥底の本音などが分かるようになってきます。リヴァイ様に悪気がないのは承知しております』
『・・・だとよ。爺さんは”出来る”執事のようだ。・・・おい、また話が逸れちまったじゃねぇか。・・・そろそろ行ってくるから、大人しく待ってろよ』
リヴァイはリサの頭を撫でると早足に食材を買いに出た。