第36章 碧い目
エルヴィン・スミスと名乗った男は、少しリサの体を見て目を丸くさせるとパサッと布を掛ける。
『スミスさん、助けて頂きありがとうございます』
『エルヴィンで構わない。手足に縛られている紐を切るから・・・少し失礼するよ』
タオルの隙間に手を差し入れ、ナイフであっという間に紐を切る。手足は自由になったが縛られていたせいで少し痺れている。それでもいつまでも乱れた服でいるわけにもいかず、気を利かせて後ろを向いてくれてたエルヴィンにお礼を言うと素早く着替える。
───本当に・・・良かった
震えそうな手をぐっと抑える。
『エルヴィンさん・・・あの、さっきの人たちは・・・』
ブラウスの最後のボタンを止めるとエルヴィンに声を掛ける。エルヴィンは着替えが終わったのを察すると振り向き、あっちだよと指をさす。
『あ・・・。死んで・・・るのですか?』
大きな図体がうつ伏せに倒れている。
『いや、殺していない・・・・・ただの気絶。彼らは地下のブラックリストに載っていた仲介屋なんだよ。こういうのは憲兵の仕事なんだが・・・』
憲兵の誰かを思い出しているのかエルヴィンは呆れた表情をする。悪いことをしてきた人達だが、リサはやっぱり殺されてなくて良かったと思った。
こんな事をリヴァイに言うと、またお前は・・・と説教じみたことを言われそう。
『あ、あのっ!』
『何だい?』
『エルヴィンさんはお怪我はありませんか!』
気絶している2人に目を向けていた碧い目はリサの方へと向けられる。考えてみればいくら体の大きなエルヴィンとはいえ、刃物を持った男相手に無茶なことをさせたのではと焦った。
『ははっ、心配してくれたのか。ありがとう、私は何ともないよ。危険なことには慣れているからね』
地下街の人間ではなさそうな佇まいからは想像できない、危険なことというワードにリサは首を傾げる。いつまでもソファに座ってるのもなんだから、立ち上がってみるとそれでも随分身長差はあった。
『危険なこと・・・?確かに地下街は危険なことだらけですけど・・・』
『そうだね。・・・でも世の中はもっとおぞましい事があるんだよ』