第1章 アップルパイ【孤爪研磨】
きっかけは、同じクラスの女の子が話していたこんな会話から。
「此の前のお休みに、お母さんと一緒に初めてケーキ作ったのー!凄く楽しかったよ!」
ケーキを自分で作る。なんて、なんと魅力的な言葉なんだろう。
私自身、料理はどうなのかと聞かれれば、お母さんがご飯を作っている時に、お手伝いというものはした事がある、という程度だ。例えばハンバーグを捏ねてみたり、フライの衣を付けてみたり。
バレンタインというものも、もちろん経験している訳で、研磨やクロちゃんに手作りで毎年プレゼントしているけども、ケーキなんて作ったことが無い。クッキーや、生チョコレートが定番になっているだろうか。
でも、今頭の中に浮かぶのは、ケーキ屋さんのショーウィンドウに並ぶ色とりどりのホールケーキ。
ショートケーキにチーズケーキ、チョコレートケーキなんかもいいなと思う。お店に並んでいるケーキ程は勿論上手に出来ないけれど、ケーキ作りというものを1度経験してみたいと思う。
早速家に帰ったら、お母さんに相談してみよう。
大きいケーキを作って、研磨とクロちゃんに食べてもらうんだ。
もちろん、甘いものが好きな私も沢山食べる。
という訳で、家に帰ってお母さんに相談してみると、快く手伝いを申し出てくれた。今週の土曜日は、ちょうどお仕事がお休みのようで、その日に一緒に作ろうということになった。
季節は秋。美味しいリンゴのお裾分けを沢山貰ったところらしいので、アップルパイを作ってみようということになった。
サクサクとしたパイ生地に、ほんのりと香るシナモン。
甘酸っぱいリンゴの味を想像するだけで、もう待ちきれない。
と、食べることばかりに気を取られている自分に気付く。
いけないいけない。
今回は、私が作るんだった。
逸る気持ちを抑えて、家にあるレシピブックからアップルパイを探し当てる。
レシピを見るだけでワクワクが止まらない。
私は、初めてのケーキ作りに胸をときめかせ、来たる土曜日を待った。