第1章
「わぁ…キレイ」
絵麻はその光景に思わず感嘆の声を上げて、ふと噴水の池を覗き込んでみたくなった。あの輝く水が溜まっているところは、まるで宝石箱のように美しいのではないかと想像がふくらんでしまったのだ。
噴水の位置は少し高くなっていて、そこまでは数段の階段がある。絵麻は普段履き慣れないハイヒールで慎重に階段を上りながら、年甲斐もなくはしゃいでしまっている自分を抑えきれずにいた。
だが、最後の一段を登りきろうとしたその時、やはり履きなれていない靴のせいで絵麻は身体のバランスを崩した。
「きゃ…っ」
グラリと傾いていく身体に絵麻は青ざめた。このままでは噴水の池に頭から突っ込んでしまう。どうしよう、両親から贈られたドレスが台無しになってしまう…。
そんな恐怖で胸をいっぱいにしながら、でもどうすることもできなくて絵麻はぎゅうっと目をつぶった。
だが次の瞬間、「危ないっ」と声が聞こえて、身体をしっかりと抱きとめられるのを感じたのだった。