第17章 涙の呼吸
「ただいま戻りましたー…しのぶちゃん、いらっしゃいますー?」
鬼に疲労は存在しないらしいけどそんなの嘘だ…疲れるものは疲れる。…気持ち的に
ここから産屋敷家まで地味に距離があったから、道中暇でしょうがなかった
退屈は人を殺す。みたいな言葉を昔何かの書物で見たことあるけど、多分こういう時に当てはまる言葉なのだろう
蝶屋敷に帰ってきて、声小さめにしのぶちゃんの部屋を軽く叩く
…中から音はしなかったけど、念のため…と思ってほんの少しだけ襖を開く
仮に着替え中だとしても女同士なので一応許してもらえるだろう
でも部屋の中はもぬけの殻で、人っ子一人見当たらなかった
さて、どうしたものか…と首を傾げて腕を組んでいると、今通ってきた廊下から人の気配が近づいてくるのを感じた
特に悪さをしているわけでも無いしそのまま何も気にせずいたのだけど…曲がり角を曲がったところで突然お盆を落とす音が聞こえて肩が跳ね上がる
「び、びっくりした……ってアオイちゃんだったんだね」
「………依千…さん…?」
「はい依千です……ってちょっと待って。なんで泣いてるの…!?」
目を合わせて一言交わすや否や、ボロボロと涙を溢し始めるアオイちゃんに驚いて駆け寄る
急いでいたのでなんの持ち合わせもなかったため、仕方なく隊服の袖で頬の涙を拭き取りがながら「どうしたの?」と聞いてみると
「あ…あんな酷い容態でここにきた人が、突然目の前でけろっとしてるんですよ…」
「ああ、えっと…お世話になりました…お陰様で今は全快してます…」
「分かってるんですか!鬼だから助かったものの…あの出血じゃ普通の人間は死んでるんです!!…あの時も…自分を省みない行動をしたし!…もっと自身を大切にしてください」
「…ありがとうアオイちゃん。次からはもっと気をつけるから」
そう言ってアオイちゃんの細い体を抱き寄せて頭を撫でる
あの時…というのは多分、蝶屋敷に偶然鬼が現れたときのことだろうか
しのぶちゃんが継ぐ子を連れてここを離れている際、たまたま居合わせた私が留守番を頼まれた時にここに鬼が出た