第16章 報告の呼吸
「事実を言っただけだよ。…それにしても、いつも君には辛い立ち回りばかりをさせてしまっているね」
「またその話?それなら気にしなくても良いって再三言ったはずだよ」
「でも…やっぱり気になってしまうんだ。確かに鬼というのは事実だけど、君は例外中の例外だと言っても良い存在だからね」
「でも薬が効いてないと…血を見れば酔いしれて肉を食らうよ。ただ少し我慢が効くだけ…それ以外は他の鬼と変わらないんだから。鬼が常に味方であるという認識だけはしちゃいけないよ」
お館様の目はもうほとんど見えていないらしいけど、その瞳孔がぼやけている瞳を見つめながらそう言う
鬼殺隊にいる知り合いは皆総じて良い人しかいない
本当にいい人たちだから、きっと私が人を食ったらとても悲しむと思う
その悲しみを少しでも和らげるために…私は私が危険な存在であると言い続ける必要がある
そうすること以外でみんなを悲しませない方法が私には分からないから
「…さぁ、そろそろお話はお終いにしよう。これ以上はお館様の体にも障る」
「…そうだね…たくさん話せて楽しかったよ。また、ここにきてくれるかい?」
「貴方が呼べばいつだって行くさ。お館様の命令は絶対遵守…だったよね」
「それは…職権濫用、というやつになるんじゃないかな」
「鬼の身に人権は無いんだよ。なら大いに濫用できるじゃないか」
そう言って悪戯っぽく笑ってみせる
その言葉に、一瞬ポカンとしたお館様だったけど…少し吹き出し目に笑い出した
「読めないね…君は」
「いつだって面白可笑しく。が座右の銘だからね!…じゃあまた今度」
「ああ。…いってらっしゃい、依千」
縁側から飛び出して数歩進んでから振り返る
そのまま大きめに手を振って、お館様に別れを告げて屋敷を出る
少し前にも似たようなことがあった気がするけど、お館様と別れる時は大体いつもこんな感じだったな。と考えることをやめる
さぁ、用が済んだし…しのぶちゃんに戻ってきてと言われているから蝶屋敷に戻ろう
今日は非番ということにしてもらえているから、見回りもしなくて良さそうだ
軽い足取りで、来た道を引き返すことにした