第12章 寵愛の呼吸
信じられないものを見ているようで、目が離せなかった
「…傷の治りが遅いな…血の順応はできている。多少足しても問題はないだろう」
そう言って、頸が繋がったのを確認して…気を失ったままの裏切り者の鬼の口を無理やり開いて舌を滑り込ませていた
ギョッとしたが…でもすぐにその行為が血を飲ませているのだと気づく
治りの遅かった腹の傷も、刀が刺さっていた掌も、瞬く間に完治していく
なぜそこまで…
どうしてそいつだけが…
そんな感情ばかりが渦巻く
一通りの処置を終えた彼の方が、今度は立ち上がり振り返る
その時の視線はいつも通り、冷気を帯びているものだった
「今度はお前だ猗窩座…柱を殺しにきて結果、この醜態…」
「…申し訳、ございません…」
「今すぐ行動しろ。忠義を示せ。そして…二度とこの鬼に触れるな」
「…はい」
そう答えて、反射的に体が跳躍してその場を去る
もう少しでもあの場にいたら、芯から凍ってしまいそうだったからだ
そして解せない
どんな言葉で説明されようが…あの鬼の存在だけは許せない
遠い遠い昔…ほんの一瞬でも姿を重ねてしまった自分が、尚のこと憎らしかった
「くそ…くそッ…!!」
たまたま目に映った通行人の首を、豆腐を握りつぶすように容易く弄ぶ
強い私怨だけが頭の中に残っていた