第12章 寵愛の呼吸
「何をしている。猗窩座」
空気が凍りつく
さっきまで高揚していた脈が、一瞬で止まる
その言葉一つで、何もかもが時間を進むことを止める
背後から現れた強大なプレッシャーに、地に膝をつけて一瞬で跪く
「〝無惨様〟…これは…裏切り者の鬼を処罰していて…」
「なら、その苦労は無駄だったな…〝その程度〟ではその鬼は死なない」
…頸が落ちたのに…死なない…?
あれは、こいつが苦し紛れについた戯言ではなかったのか…?
そんな疑問が浮かぶが、一瞬で払拭する
「な…なぜ、ですか」
「…なぜ、とはなんだ」
「なぜ…このような裏切り者に…寵愛を捧げるのですか…」
少しでも口答えをすれば機嫌を損ねることはわかっていた
だから、言われた通りに。聞かれた通りに。思った通りの言葉を発する
あのお方は、もう俺の目の前にはいない
後ろで事切れているように見える首のない体の目の前にいる
その体に向ける視線は、俺が今まで向けられたことのない…温度のある視線だった
「寵愛…そうだな…そう言い表すのは正しい」
そう言って、地に転がっている頸を拾って首のない体に押し当てる
少しずつ、少しずつ…頸は繋がっていった
…信じられない光景だった
あの方が、誰かの体を治しているところを見るのは初めてだった
上弦の鬼ですら、機嫌を害す言葉を喋れば頸を取られることはあってもあのようなことはされない
何がそんなに違うというのか…全くわからない
「生きていれさえすれば、どこに属していても構わない。生きていれさえすれば、何をしたって構わない。生きていれさえすればいい…私がこの鬼に向けているのはその感情だけだ」
…そう、言った
その言葉は明らかに熱を帯びていた
いつもの氷のようなものは一切含まれていない…情だけが込められていた