第9章 久しい呼吸
「いつからですか?」
「炭治郎たちがここに来た日から、ずっと起きることなく眠り続けている」
「数ヶ月もですか…鬼でなければ大事に至りますが…」
そう言って首元からの脈拍、息遣い、体温…調べられる所は調べ尽くしてみる
「一応人間の、頼れる医者にも診せたが理由は分からなかった」
「確かに、本当にただ眠っているだけみたいです。…でも、これは…」
鬼だからこそわかるのか、長年の経験からくる勘なのか…
なんだか今の禰豆子ちゃんから、鬼特有の嫌な気配がしない
それが眠っていて意識がないからなのか…何か体に異変が起こっているからなのか…そこまではわからないが…
「少なくとも悪い方向には向かってはないと思います。…禰豆子ちゃんからはなんだか…人間味を感じられる」
そう言って頭をゆっくり撫でる
こればかりは目が覚めるのを待つしかなさそうだ
「依千からの言葉なら、信用に足るだろう。ありがとう」
「そんなこと言ってしまっていいんですか?…私鬼ですよ」
「共にこの時代を生きた身なら誰もが知れている。お前は確かに、人間側にいると。…仲間だとな」
「…ありがとうございます」
鱗滝さんとは、彼が現役で活躍していた以前から知り合いだ
彼だけじゃない。ずっとずっと…何世代も昔から鬼殺隊となり鬼と戦ってきた子供達を私は覚えている
流石にお館様程のことはしてあげられないが、彼らのことを少しでも多く知り、覚えていたいと思うのはよく分かることだから
だから、相手にそういう風に思ってもらえることは私にとっても名誉なことなのだ
「ただいま戻りました……ってあれ、あなたは…」
「やあ炭治郎。久し振りだね」
「依千さん…!お久し振りです!」
泥だらけの傷だらけで帰ってきた炭治郎だったけど、表情がパッと明るくなる
側から見たら酷い有様だろうけど、こうまでしないと二年間のうちに全ての修行内容を修めることはできない