第3章 珍しい呼吸
時は大正
人々は今日も明日も明後日も、きっと普通に生きていくのだろう
この世に鬼が蔓延り、日夜人を食らっていることを知っている人はどれくらいいるだろうか
知らないということは幸せであると同時に、とても残酷だと思う
「今日はいい天気かい?依千」
「…ええ。とっても良く晴れているよ…月が綺麗だ」
縁側に腰を掛けて空を眺めていると、後ろから声が聞こえた
声の主は、今私がいるこの屋敷の当主である産屋敷耀哉という人だ
この鬼が蔓延る時代に、政府非公認の鬼狩り…鬼殺隊を作った一族の人間である
簡単に言うと、鬼殺隊にとってとてつもなく偉い人だ
そんな人の屋敷に私がいることがもう既に場違いなのだけど、まぁ色々と理由があるわけで…今はとりあえず置いておく
「今日は体調が良さそうだね、お館様」
「おや、急に言葉を選んでどうしたんだい?いつもみたいに名前で呼んでくれてもいいのに」
「あの呼び方すると一部の柱の子達から殺気が凄いんだよ…それにこの呼び方、嫌いじゃないんだよね」
私の隣に腰を掛けるお館様に、そう告げる
会議に出席して、思わずいつも通りに「耀哉」なんて呼び捨てにした日には風と蛇と霞の子に切り刻まれそうで仕様がない
だからこれからはお館様呼びで定着させる気だったのだ
「それはそうと珍しいね。狩に行く前に呼び止めるなんて」
「そうそう、その事だったね。…依千に一つ頼まれて欲しいことができたんだ」
「…本当に今日は珍しい事続きだ。貴方が頼みごとだなんて」
「君のことは結構頼りにしているよ…心強い用心棒としてね。…それで、頼みごとだけれど…」
…近々人と鬼の兄妹がここに来るだろうから、彼らが皆に認められるまで影ながらに支えてあげては貰えないかな
産屋敷の一族には代々先見の明があるだなんてよく聞くけど…
にしても的確すぎるその言葉に思わず目を見開いた