第1章 1限目
『あーーー、もう本当怠い、社畜だわ本当』
夜も既に9時を回りもう少しで10時になろうとしていた頃、1人の女が住宅街を歩いていた。
名前は水瀬 累 27歳。
もう少しで三十路…なんて考えたくないお年頃だ。
無個性として生きていた累は普通に大手企業のOLとして働いていた。
大手企業に入れたのはあの有名な雄英の出だからだ。
と言っても普通科だったが。
今や世の中はヒーロー社会。
突然色々な能力を得た子供達。
その目覚めた力を個性と言う。
そしてその力で悪い事を働く奴らが出て来ると必然的にそれを罰する者が現れる。
それがヒーローだ。
アニメや漫画などでしかあり得なかった世界が今現実になっているのだ。
そしてその能力が無いものもまた存在しており、それが無個性と言われた。
その者達はこのヒーロー社会で蔑まれたり窮屈な思いをしながら生きているのだ。
なんて不憫で生き辛い世の中だろうか。
今日も今日とて残業を終えて1人トボトボと帰路についていた。
会社の中でも程々に上の立場の私は仕事量が平社員より多いのだ。
確かにあのクソ偏差値の高い雄英の出の私は普通よりはかなり頭の出来は良いが…入る所間違えたかな、なんて思う程残業が多い。
いや、残業代は出るからいいんだが、それでも連日だとこちらの身が保たないと言うか…。
はぁ…と大きな溜息をつく。
幸せが逃げていくとか言うけど、むしろ私に幸せが訪れるのかと考えていると、少し先の方に道路に倒れている猫を発見した。
『えっ、まじか!』
急いで駆け寄ると「シャーっ」と威嚇してくるが、何処と無く威勢がない。
逃げない所を見ると、どうやら何処か怪我をしているようで動けないようだ。
『ちょーーっと見せてね』
そう言って身体を見てみると、前足から血を流していた。
どうやら切り傷のようだが、骨まで達してはいないものの傷は深かった。