第59章 キスまで100㎜/若イルミ/裏
目の前の人間の事は、外見も勿論だが中身もよく知っている。自分の正とするルールを曲げようとしない。進展のない見つめ合いを続けるこの状況にも当然それは適用されるわけで、このままではまるで先に進まないように思える。
「じれったいな」
困った顔で見つめていると 手首をさらにぐいっと引かれる。より近付く距離に この隙間も終わりかと期待をすれば少し違う場所に唇が触れる。
「…っ、」
「どこまで我慢出来るか試してみようか」
耳朶の付け根あたりに口付けられる。首元に顔を埋められれば、視界に入るのは普段より随分華奢な肩のライン。服の襟元からは滑らかな肌が見え視線が服の中の影に吸い込まれる。
「イルミ…、」
じれったいのはそっちだと言いたくなる。耳や首筋を唇で優しく撫でられれば その度に髪が首筋や頬にいつもと違う刺激を与える。サラサラ流れるあの長髪の感触が大好きだが 当然今はそれがない、代わりに少しツンツンする くすぐったいような感覚がある。そっと髪に指を絡めてみる。
長い髪は重力に従い 艶やかな絹糸の如く 細く真っ直ぐだと記憶しているが、こうして触れてみると 思っていたよりもコシがあり健康的な印象を得る。
イルミはリネルの首筋を下から上へ愛撫する、舌が耳をなぞる感触にゾクリと背筋が揺れ 小さな声が出る。
「ぁ…っ、ん」
「結構粘るね」
「だっ…て」
「まぁいっか。キスなんかしなくてもできるしね」
耳元に響く意地悪な言葉がいつもより若干高く聞こえなくもない。そんな考えも甘く乱されるべく 皮膚の薄い首元を何度も淡く舌が往来する。時々ちゅっと吸い付かれる。
「は…っ、ぁ」
繰り返されていれば呼吸が上がり 立ち膝を保っているのが辛くなってくる。イルミの首筋に両手を回し 腕にぎゅっと力を込める。
顎が薄い肩に乗る、うなじ部分が目に入る。イルミの首の後ろを見るのは実質初めてかもしれないと思う。
現在の体年齢を差し引いても 首元はやや華奢でスッと長い。堪らず首の付け根あたりへ唇を寄せてみる。視線を上げれば キレイな輪郭が視界に入る、今日は惜しみ無くそれが見られる。吐息とともにチラチラ舌を滑らせる。