第2章 .漂う手紙の終着点
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その日の夜、私は寝ることが出来ず夜空に浮かんだ月に照らされた甲板で暗い海を眺めていた
暗い海には月や星の光を反射しキラキラと輝いていた
なんだか蛍みたい
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あしびきの山鳥の尾のしだり尾の
ながながし夜をひとりかも寝む
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百人一首の第3歌 柿本人麻呂の歌である
百人一首なんて中学生の時に習ったものだからそのほとんどは忘れてしまったけど、この歌だけは眠れなくなった夜にふと思い出す
「随分とわびしいこと言うじゃねぇか」
『!』
急に声をかけられたものだからビックリして後ろを振り返ってみれば、髪を下で結ったイゾウさんが暗闇から姿を現した
『驚かせないでよ…』
イゾウ「いや、お嬢が甲板に行くのを見かけてな」
つい後を追って来ちまった、と言うイゾウさんにストーカーで訴えますよと言うとそりゃ勘弁と妖美に笑って返された
『ところで寝てなくて大丈夫なの?
...まぁでも、一人じゃ寂しかったからイゾウさんが来てくれて良かったよ』
イゾウ「...何かあったのか?」
少ししか共に過ごしてはいないが七都の様子がおかしいことに気がついたのか、イゾウは彼女の顔を覗き込みながら問うた
『...ちょっと兄さん達のことを思い出して』
イゾウは七都が食堂で兄妹の話をしていたとき、そこに居なかったので初耳となるが七都の様子からなんとなく兄に会えず寂しいのではと察した
だからなのかイゾウは口では何も表さず袖の中に隠れていた手を七都の頭の上におき少しの間撫でていた
七都もまた特に何か言うわけでもなく、ただただその行為を受け入れてまた海を眺めた
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