第37章 違和感
あれから数日 清十郎の指導は受けたが 何ら変わらない態度で少し安心した
出久は数日前に口にした清十郎の華への想いを知ったから 遠慮なく何か仕掛けてくるのかとドギマギしていたのに拍子抜けなくらいに何も無い
それどころか清十郎の指導は的確かつ分かり易い授業に夢中になっていた
だから彼女の口から聞いた言葉に違和感を感じた
それはある日の夜喉が渇いて水を飲みに行こうと下の共同ルームに降りたら そこにはキッチンでカチャカチャと何かを作っている華ちゃんの姿があった
「あれ?華ちゃん まだ起きてたの?」
時刻は日付けを跨いでしまってる時間なのに起きてるなんて珍しい
「あぁ 出久も起きたの?私は今読んでる本がいい所だから全部読んでしまいたくって」
言いながら火にかけられた鍋をゆっくりとくるくると掻き回したら湯気と共に甘い香りがふわりと鼻を掠めた
「いい匂い 何作ってるの?」
「あっ 出久も飲む?沢山作り過ぎてどうしようかと思ってたから ホットミルクだからグッスリ眠れるよ?」
カチッとコンロの火を消してマグカップを取りに行こうとする華に出久はコクンと頷いた
「うん、貰おうかな?あっ 僕が持って来るよ」
言いながら食器棚に取りに行く出久の後ろ姿に華はありがとうと口にした
「はい、どうぞ」
「ありがとう いただきます」
渡したマグカップに注がれたミルクに口を付けるとミルクの特有の味と僅かに蜂蜜の味がした
「あれ?これ蜂蜜の味がする」
「良くわかったねぇ、隠し味に蜂蜜を入れてるんだ」
ふふんと得意気に華は言うと 出久と同じようにカップに口を付けた
「ふう あったまるぅ」
ほぅっと息を付きながら呟く様子に出久は今なら聞くに聞けなかった事を聞けるんじゃないかと口を開いた
「あ…あの華ちゃん あの…「何してんだ?」
今だ!と思った出久の言葉は虚しく遮られてしまった
「あれ?焦凍も起きてたの?」
声の主はゆっくりと僕達に近付いて来た
「あぁ、布団には入ったんだが眠れなくてな」
出久と同様 水を飲みに来たんだそうだ
「それなら焦凍もホットミルク飲まない?作り過ぎちゃって」
「…飲む」