第33章 適正
「…エラソー」
「優しく慰めて欲しかった?」
ボソボソ聞こえた声に華がそう答えると勝己は僅かにいつもの顔をしていた
「お前が優しいとか想像出来んわ」
そう言うと膝に置かれていた華の両手を勝己はぎゅっと握った
その突然の行動に慌てて華は握ってきた勝己の手をばっと離した
「あ"?なんだよ急に」
「い…いや、そろそろ帰ろうかなと」
「今更お前 男の部屋に入った事意識してんのか?クソ遅せーんだよ」
イスからギシリと音を立ててにじりよってくる勝己に冷や汗を垂らしながら後ろへと華は後退った
「遠慮すんな なんなら泊まってってもいいぜ」
なんて事を言い出すんだ!すっかり元の調子に戻った勝己に「ふざげんな!」と返すと
「いいじゃねーか 前は一緒に寝ただろー」
「いつの話してんのよっ!昔と今は違うでしょーが」
確かに一緒に寝た事はある だけどそれは幼稚園の頃の話であって可愛い思い出だ
「あ"?何が違ぇーんだよ?教えてくれよ」
そう言いながら勝己が髪を掬って口付けるから華はその場にいたたまれなくなった
「もう帰るっ!お邪魔しましたっ!」
ガチャガチャと音を立ててドアを開けて慌てて出て行く華の後ろ姿を勝己は面白そうに見ていた
やがて玄関先で華とババァが会話している声が僅かに聞こえた
「あら、もう帰るの?夕飯どうかなと思ってたんだけど…」
「いえ、用事があるので、お気持ちだけで」
「じゃあ、また来てね」
「はい、また機会があったら是非」
そんな社交辞令的な会話にもまた次の機会があるのかと思うと期待してしまう
勝己は玄関をパタパタと出て行く華の後ろ姿を2階の窓から見下ろして見ていた
「ありかど…な」
ボソリと呟いた勝己の言葉は誰にも聞こえることなく彼女の背中へと消えた